松屋銀座 二〇二〇ありがとう、二〇二一おめでとう。

SDGs時代の空間デザイン。徳島県の「藍」で魅せる、日本最大級の藍染暖簾。

柴田 亨一郎松屋

松屋銀座 二〇二〇ありがとう、二〇二一おめでとう。

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

松屋が創業150周年を終え151年目の新たな決意をするに当たり、社内外に向けて象徴的なインスタレーションを制作しようと考えました。私は経済同友会地域共創ワーキンググループに所属しており、様々な地方を回る中で、伝統工芸、文化、モノづくりが衰退し若者が地方を離れていく現状を見聞きしていました。そして「デザインの松屋」を標榜する百貨店として、デザインの力で地方に少しでも貢献できないかという考えに至りました。その中で、我々は単に地方の伝統工芸やモノづくりをインスタレーションにするのではなく、新しいアイディアや思いもつかないような発想で地方の伝統工芸やモノづくりに新しい影響を与え、メディアやSNSでの話題性を喚起させる事をミッションとしました。今回の藍染暖簾の大きさは約25メートルの吹き抜け全てを使った巨大なインスタレーション。藍染のイメージは通常、店舗の暖簾や手拭い、風呂敷、Tシャツなどの小物を想像します。しかしながら、今回は全長9メートルの藍染暖簾を29枚組み合わせた過去に例を見ない程の大きさ。絵合わせによる松のイラストと藍染の質感が優雅で且つ新しさもあり、松屋の新しい門出に相応しいインスタレーションが完成しました。藍染暖簾の制作は、藍の育成から染めまでの全工程を一貫して担っている徳島の藍師・染師BUAISOU(ぶあいそう)。彼らの藍に対する真摯な姿勢とチャレンジ精神が人々を感動させるデザインには不可欠でした。

藍染暖簾の制作、施工風景  撮影:株式会社ソノブイ
【左】「染め」巨大な暖簾を染めていく 撮影:BUAISOU 西本京子/【右】「チェック」図面と染め上がりを確認 撮影:BUAISOU 西本京子
【左】「染め」巨大な暖簾を染めていく 撮影:BUAISOU 西本京子/【右】「チェック」図面と染め上がりを確認 撮影:BUAISOU 西本京子

Question01

受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?

徳島の藍師・染師「BUAISOU」との出会い及び、彼らのチャレンジ精神が最後のピースでした。藍染は元々、藍の生産者、スクモの生産者、染師に分業されている業界です。彼らは種から、染めまでを一貫して行い、伝統的な技術を継承しつつも、古い伝統(しきたり)を変えていきたいと考えています。藍という生き物の染料を扱い手作業で丁寧に染める為、今回のような巨大な暖簾の難易度は極めて高い。どうしたら実現できるのか、染めの手法を工夫し、新たな道具を作り試行錯誤の上、今回の巨大な藍染暖簾が完成しました。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?

地方のモノづくりの現場で職人の技を見ながら、彼らのモノづくりへの想い、悩み、将来の展望等を聞き空間デザインのコンセプトを考えている時が一番好きです。職人の中には積極的に新しい事に挑戦しようという人もいれば、あまり積極的ではなく現状のままで良いという人がいます。その中でチャレンジ精神溢れる職人と出会いはとても貴重です。そして、お互いにアイディアを出し合い、それをどのように形にしていくべきか一緒に考えている時は新しいモノが生み出される予感がしてとても楽しいです。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番嫌な事は?

特に嫌だと思うことは無いですが、空間デザインはグラフィックデザインと比べて、ラフ画やパース等と実際の制作物に乖離がある事があります。制作物のスケールが空間と比較して思ったよりも小さかったり、大きかったり、また制作物を光らせようと思っているのにあまり光らなかったり。そのような場合は修正しようもなく、時間が巻き戻せたら、何故あの時もっとチェックしなかったのだろう・・と後悔する事があります。そのような時は自分が嫌になります。

Question04

コロナ禍でのデザインの果たすべき役割とは?

デザインは世の中の人々を元気で前向きにする力があると思っています。そしてコロナ禍において、デザインは美しさや面白さを求めるデザインから、社会的に意味のあるデザインが求められていると考えています。それはSDGsを意識したデザインです。今回の藍染暖簾のように地方の伝統技術や文化を見直し、新しい可能性を見出す事で、日本は素晴らしい技術や文化を持つ美意識の高い国だと思った人も多いと思います。コロナにより東京は疲弊していますが、地方は更に疲弊しています。デザインは地域を活性化し、日本を元気にする役割があるのではないでしょうか。

Question05

リアルとバーチャルを融合させる空間デザインとは?

リアルとバーチャルを分けて考えるのではなく、空間デザインにより何を伝えたいのか、何を体験してもらいたいのかという思考がより重要になってくるのではないでしょうか。特にバーチャルは一方的なコミュニケーションではなくインタラクティブなコミュニケーションが得意です。最近はリアルとバーチャルが融合された空間デザインが増えてきましたが、まだまだ技術面を重視するあまり体験までに手間がかかり、分かりにくいものも多く見られます。お客様ファーストでコミュニケーションを重視し、リアルとバーチャルを融合させていく事が大切だと思います。

Question06

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

SDGs時代では単に美しい、面白いというデザインではなく社会的に意味のあるデザインをすべきだと考えています。日本には美しい文化、伝統技術、モノづくりがあります。空間デザインにより日本人や日本に訪れる外国人に対して日本人の心や美意識を再認識してもらいたいです。そしてそれを繋いでいる職人や家族が安心して暮らせる日本にしていきたいです。その為には日本の伝統産業の危機的な現状を理解し、皆で力を合わせて日本の文化を守っていく必要があると思います。

Question07

空間デザインの多様性について一言

多様性について考える時、時代の変化に敏感で、且つ常に冷静に判断していく必要があると思います。デザインに意味や意義を見出す時代において、多様性については必ず考えていかなくてはならない要素です。一方、コンセプトばかり重くなり、楽しさや美しさが損なわれる事も避ける必要があります。そのバランスをとっていく事が最も困難であり、楽しい作業ではないでしょうか。

Question08

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

空間デザイナーは単に空間をデザインすることだけが仕事ではありません。特にSDGs時代には政治、経済、環境、ジェンダーなど様々な領域に対して関心を持ち、日本だけでなく世界まで俯瞰して物事を見ていく必要があると思います。クライアント企業が求めている事に対して新しい視点でアプローチできるよう、何事にも関心を持って勉強してください。デザイナーの領域がどんどん広がっているので、好奇心が旺盛な人はとても楽しい仕事になると思います。

PROFILE

柴田 亨一郎

柴田 亨一郎

松屋

1996年株式会社松屋に入社。
宣伝・装飾部門に15年所属し、2019年松屋創業150周年「デザインの松屋」プロジェクトにより新設されたブランドデザイン部に配属。企業広告、ショーウインドウ・ディスプレイ、WEB、SNS等、企業ブランディング推進部門の責任者。

広告電通賞審査員(2015-2018年)
公益社団法人 経済同友会 地域共創ワーキンググループ所属(2018年より現在)

最近の受賞(直近3年間)
2021年日本空間デザイン賞 ショーウインドウ&ビジュアルデザイン空間部門銀賞、サスティナブル空間賞
2021年銀座ディスプレイコンテスト 日本空間デザイン協会賞、銀座通連合会優秀賞
2020年銀座ディスプレイコンテスト 日本空間デザイン協会賞、銀座通連合会優秀賞
2019年銀座ディスプレイコンテスト 銀座通連合会優秀賞