オモケンパーク

創造的復興を目指す小さな復興プロジェクト

矢橋 徹矢橋徹建築設計事務所

オモケンパーク

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

熊本地震で被災解体されたアーケード沿いの貸しビル跡地に計画した多目的広場と東屋です。敷地は熊本市内のメインストリートであり熊本の商業の軸となるアーケードの中にあります。アーケードでは近年スポンジ化や地域市場縮小、ナショナルチェーン化の問題が震災によって更に浮き彫りになった一方、震災は市民の間で相互扶助の意識を拡幅し新しい街のあり方を予感させるきっかけともなりました。
そこで私たちは、アーケードの商店のサテライトや地域文化の発信拠点、行政と連携した活動などを行える「街の縁側」のような開かれたシェア拠点として整備することで、縮小を前提とした新しい街のあり方を目指しました。最小限の建築によって建設コストと環境負荷を抑え、敷地の余白を多目的広場として開放し、敷地内で自己完結しない相互補完的なプログラムを差し込むことで街と共に成長していく創造的復興です。
小さな東屋はカフェとして機能するだけでなく、屋内ギャラリーや広場のイベント時のゲートハウスとして利用できるフレキシブルな筒状の構造としました。地面から隆起した3枚の屋根がズレながら空間ができています。ビルの谷間のわずかな光を天井が拡散する独特な環境をつくり、木製の大型引き戸を開け放てば風が通り抜ける半屋外空間になる現代的な町屋のような環境装置となっています。アーケードに面した前庭と半屋外のポーチ、独特の光に溢れる室内空間、ズレが生み出したスキップ状の屋外テラス、これらは活動の下地として用意されています。下地から様々な使い方が能動的に発見され、この場所でしか出来ない企画や使い方に発展することで有機的なプラットフォームとして街に定着することを願っています。

Question01

受賞作品の最後のピースは、どこでしたか?

この建築は断面的に計画されています。アーケードに面した大きな軒下から中庭に面した軒下まで、段々とスケールが身体的に変化します。また屋上に上がるとスケールを変化させていた段差はスリット窓となり街の風景をトリミングします。この変化の調子を作る段差の寸法を決定するプロセスが最も重要なピースでした。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?

仕事に序列をつけて考えた事がないので、何が一番と問われるととても困ります。楽しい時間として答えると、機能や合理性を超えたところにあるスケールレスで抽象性の高い建築をイメージしている時間だと言えます。それはスケッチだったりスタディ模型を作っている時だったりと様々です。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番嫌な事は?

仕事で嫌なことはありますが、プロジェクト毎に異なるので空間デザインで一貫した嫌な事はありません。嫌なことというわけではありませんが、情報と共感の時代におけるクリエーションの難しさを痛感することはあるように思います。

Question04

コロナ禍でのデザインの果たすべき役割とは?

コロナ禍を経験した私達には新しい距離感が生まれました。私たちは新しい距離感をきっかけに空間デザインを再構築し、多様な文脈との交差に基づく人間と空間の関係に創造的変化を起こすことが必要だと考えます。

Question05

リアルとバーチャルを融合させる空間デザインとは?

バーチャルが高度に身体化する現代は、リアル/バーチャルの二極化では語れない複雑な社会です。特に接触を制限されるコロナ禍においては重要なキーワードとも感じます。しかし、デザイナーは単なるイミテーションに陥ってしまわないように、本来バーチャルに必要とされる価値や関係性を正しく見出した上で融合の可能性を模索する必要があると思います。

Question06

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

強いマニフェストのようなものは持っていません。しかし、建築と人間の探求の先に社会や都市への眼差しを持ちながらデザインをしています。

Question07

空間デザインの多様性について一言

ユニーバサルでフレキシブルな空間だけが多様性を包括できるとは思えません。多様性には様々な使い方が発露するアクティビティーの下地として、人々の振る舞いに応答した空間デザインが必要です。それは既存の計画学によって計画された空間では不十分かもしれません。

Question08

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

デザインの本質は関係の構築であることを意識した開かれた思考を持つことがデザイナーにとって大事だと考えます。

PROFILE

矢橋 徹

矢橋 徹

矢橋徹建築設計事務所

1981年熊本県生まれ。
日本文理大学工学部建築学科卒業後、UID一級建築士事務所勤務などを経て2013年に矢橋徹建築設計事務所を設立。
2020年より崇城大学工学部建築学科非常勤講師も務める。
主な受賞歴に2019年くまもとアートポリス推進賞選賞、IDAデザインアワード銀賞、2020年くまもと景観賞奨励賞、日本空間デザイン賞銀賞など。