カタチとくらし
いきものの暮らしを伝えるカタチ
藤井 北斗hokkyok
応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください
「カタチとくらし」は、水族館で行われた企画展です。いただいた企画コンセプトは、「生き物展示×人工構造物」の展示。「生き物は自然の一部を使用している」その一部を取り出しシンプルな形とすることで、いきものの姿の意味(生態)を伝えるというものでした。生き物は、太古から気の遠くなる年月かけて、厳しい自然環境に適応し現在の姿へと進化してきました。つまり、生き物の生態は、生息している自然のカタチから成り立っていることになります。複雑な環境の中でたくさんの種が共存している一方で、それぞれに縄張りを持っています。その中から1種を選び、生き残るために使用している環境の「細部」に着目すると、自ずとその種の形状や色の意味がわかるのでは、という仮説から始まった企画です。
そのため、この展示を成功させるには、どのいきものを選ぶかがポイントとなります。100種を超える飼育可能ないきもののリストから、デザイナー目線で、ひとめでわかりやく面白いと感じる生態を持ついきものを探しました。「穴」に隠れるナベカ、「縞々」柄のヨスジリュウキュウスズメダイ、縦に泳ぎウニの「トゲ」に擬態するヘコアユ、尾で「棒」に捕まるビックベリーシーホース、「高いところ」から辺りを警戒するクダゴンベ、「影」に隠れ天井に逆さにつかまるスザクサラサエビ。この6種を「家のキーワード(=伝えたい生態)」とともに選び、飼育スタッフと議論を重ね、その快適性を検討しました。特徴的な暮らしをするいきものを選んだおかげで、「伝えたい生態」だけを抽出してシンプルに見せることは容易でした。例えば、ナベカはどんな「穴」が好きなのかを分析して、それに応じた「穴」を用意してあげればよい。難しかったのは、その「細部」以外の形状をどうするかでした。
生き物は人工物であっても、快適に住めれば基本的にはなんでも良く、実際に海岸では、テトラポットの隙間をすみかにしている生き物を見ることができます。しかし、人間の目にはそうは映らずに、自然(もしくは自然のような擬岩)のなかで暮らしていることが、生き物にとって幸せだと感じるようです。いきものに機能性を重視した人工物の住処を与える試みは、古くから水族館で行われていますが、そこには常に「かわいそう」と感じる人間の感情とのせめぎ合いが生まれています。そこで今回は、そのいきものにとって、徹底的に快適な家を作ることを試みました。なんとなくの形を排除し、すべてのディテールにいきもの暮らしの意味があるような形を目指しました。言葉にできる「家」を作ることが今回のデザインの中では重要でした。
①「家」を離れた時の泳ぎ方 ②閉館後に眠る場所 ③性格(特に複数飼育時の個体の関係性) ④新しい環境に対する適応性、さらには、実際に世話をすることを考慮した⑤飼育スタッフの給餌/掃除のしやすさの5点を考慮しながらデザインを進めました。結果として抽象性の高い形状になりました。普段生活の中でみることのない特殊な形状は、意図を持って作られた形であることを理解してくれたのか…ありがたいことに、この人工的な「家」に対するネガティブな意見はお客さまから聞かれませんでした。
形状全てに意味があることは、「伝えたい生態」以上のことを語ることができました。お客さんとのスタッフのコミュニケーションの手段にもなったかと思います。水族館のいきものそれぞれ異なる生態をもっています。それを「知らない」と水中を泳ぐ魚の形違い、色違いと思われてしまう可能性がある一方で、全てのいきもの1匹ごとに細かい解説板をつけることはできません(情報が増えすぎてしまうことは、お客さんのストレスになってしまう)。今回の水槽は、そういった解説版がなくても、見るだけでいきものの生態がわかる展示を目指しました。いきものを観察する楽しさ、「知ること」の喜びの入口になってくれればよいと考えています。
いきもののための小さな「家」に対して、お客さんが回遊する展示空間は、人間の「家」を想起させる屋根型を提案しました。こちらも今までの課題解決の一環として、水族館スタッフにヒアリングして、展示の見え方の検討をしました。水族館の水槽は子供の目線高に設定され、大人は腰をかがめながら見るという高さ関係が多いです。今回は水槽を斜めに配置し、段差を設けて大人と子供が一緒に見える配置を提案しましたまた、さらに背の高い人は上からも覗ける覗き窓や、手をついてゆっくり観察ができるカウンターを設けるなど、滞在時間を延ばす工夫をしています。道線上、全体が見えないレイアウトも、壁面を背負うことで回り込む楽しみをつくる仕掛けとなっています。
もちろん全てが想定通りに進んだわけではありません。いきものが快適に暮らせたのかも、いきものでなければわかりません。ただ、展示期間終了後に飼育スタッフからは、いきものの繁殖行動が見られたので、リラックスできたのではないかという言葉をいただきました。実験的な要素が強い企画展でしたが、この展示の良いところ悪いところ含めた経験が次の展示に繋がり、いきものにとっても人間にとっても、より快適で新しい水族館の空間を目指すきっかけになれば良いと思っています。
Question01
受賞作品の最後のピースは、どこでしたか?
展示開始時のいきものの動き。
Question02
空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?
知らないことを知れること。
知らない土地に行けること。
Question03
空間デザインの仕事の中で、一番嫌な事は?
コスト調整。
Question04
コロナ禍でのデザインの果たすべき役割とは?
心身ともに安心を作ること。
Question05
リアルとバーチャルを融合させる空間デザインとは?
相乗効果で新しい体験を生み出すこと。
Question06
空間デザインで社会に伝えたいコトは?
場の空気を肌で感じる大切さ。
Question07
空間デザインの多様性について一言
何をしていてもそこは空間です。
Question08
空間デザイナーを目指す人へのメッセージ
チャレンジすることを忘れずに。
PROFILE
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藤井 北斗
hokkyok
アートディレクター/デザイナー
1982年埼玉県生まれ、
2005年京都工芸繊維大学卒業。廣村デザイン事務所などを経て、
2015年hokkyokを設立。
2020年日本サインデザイン賞金賞/銀賞、日本空間デザイン賞金賞受賞。ロゴマーク、ポスター、パッケージなどのグラフィックデザインのほか、サイン・展示計画、アートワークなど平面から空間へと展開するデザインを軸に活動している。主な仕事にMIYASHITA PARKサイン計画、すみだ水族館展示計画、鈴与本社ビルCODOアートワークなど。
hokkyok.com