tobe

性格の異なる9つの箱で祖母の住まいをぐるりと抱きかかえ、artと生きる

成田麻依kufu

tobe
(撮影:TOREAL 藤井浩司)

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

要望は所有するartと暮らす。artで生きる。
加えて高齢になった祖母と同居し、元気にしたいという要望もあった。
敷地には3階建てのアパートが建ち、1・2階は祖母が生活、3階は賃貸。周囲に小道が走り、地域の人の生活動線として人通りがある。
まず本建物は祖母のアパートを抱え込むように配置し、ボリュームを各部屋ごとのスケールまで落とし込み、小道に対して圧迫感を与えないようにした。
アパートに対して全面開放とすることで、常に祖母を見守ることができて、祖母はどこからでも入ることができる。アパートとの境界を曖昧にすることで、別棟だが同居しているような、光も景色も透す薄いカーテン一枚の距離感を実現させた。
各部屋には用途を決めず特徴のみを与え、廊下で繋げることで、全ての部屋がartの背景として機能する並列な展示空間とした。外殻はカジュアルでクラシカルな印象の県産材のブリックタイルで構成、内壁は体温を感じるような薄ピンク色で塗り、空間にartで色を添えるのが楽しくなるような色彩計画とした。
artが常に身近に感じられるとともに、街に対しては建物からartが広がっていく。
建物自体が街と祖母それぞれに呼応し繋いでいく新しい境界線となるような計画とした。

(撮影:TOREAL 藤井浩司)
(撮影:TOREAL 藤井浩司)
(撮影:TOREAL 藤井浩司)
(撮影:TOREAL 藤井浩司)
左上から<br />
施主家族と共に訪れた広島県内の竹原市にあるブリックタイル工場(撮影:kufu)<br />
県内で採れた土からレンガを作る(撮影:kufu)<br />
ちょうど窯がお休み中だったので、窯の中まで見せていただけた(撮影:kufu)<br />
施主と共に選んだのはカジュアルでクラシカルな雰囲気の焼きムラの多いブリックタイル(撮影:kufu)<br />
施主の娘さんにブリックタイルを貼ってもらい、愛着のある家づくりをした(撮影:クライアント)
左上から
施主家族と共に訪れた広島県内の竹原市にあるブリックタイル工場(撮影:kufu)
県内で採れた土からレンガを作る(撮影:kufu)
ちょうど窯がお休み中だったので、窯の中まで見せていただけた(撮影:kufu)
施主と共に選んだのはカジュアルでクラシカルな雰囲気の焼きムラの多いブリックタイル(撮影:kufu)
施主の娘さんにブリックタイルを貼ってもらい、愛着のある家づくりをした(撮影:クライアント)
小道に対してのボリューム操作
小道に対してのボリューム操作

Question01

受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?

光も景色も透す薄いカーテン。このアイテムは初期から構想していたコンセプトの根幹となるものですが、なかなか欲しいものは市場に販売していませんでした。ないなら作るしかない、と最終的には施主が服飾を学んでいたこともあって、生地探しから制作までしていただいて全長35m以上のカーテンを現実に落とし込んでくれました。
風を可視化してくれる最後のピースをつけ、本作はコンセプトにまっすぐ走り抜けられました。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?

私が思った「こうだといいな」が、誰かにとっても「なんかいいな」と伝わり、たのしい気持ちになったり、ハッとしたりホッとしたり、空間を体感することで誰かの心が動くこと。
ほんの少しだけ、人の感情をデザインしているような感覚になります。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番苦労する事は?

苦労と思わず、何事も楽しんで取り組むようにしています。

Question04

クライアントとのやり取りで印象的に残っている言葉や事はありますか?

施主が教えて下さったことはたくさんあるのですが、私の中で大きかったことはartへの考え方が変わったことです。施主は元々artをたくさん所有していて、それらと一緒に生きていました。
美術館で見るような器も茶渋がつくまで使っていたり、作品に子供が触ることも許容していたり、artとの寄り添い方を間近で見ていると、artへの敷居の高さは幻想だったのではないか、こんなartの楽しみ方もあるんだと気づかされました。
美術館で正対して見るartもいいですが、家族の一員のように迎え入れてartに寄り添う生き方は、私もこんな生活がしてみたいなと素直に憧れます。

Question05

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

美しいものが当たり前の世界になるといいなと思っています。

Question06

空間デザインの多様性について一言

多様性のベクトルの根源がやさしさであるといいなと思っています。

Question07

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

何事も楽しんで取り組むことが一番だと思います。

PROFILE

成田麻依

成田麻依

kufu

kufu共同代表

左:成田麻依
1984年 広島県生まれ

2007年 広島工業大学環境学部環境デザイン学科卒業

2007-2009年 池下設計 所属

2009年 石上純也建築設計事務所 所属

2019年 kufu共同設立

右:成田和弘
1981年 茨城県生まれ
2004年 芝浦工業大学 卒業
2004-2011年  環境デザイン研究所 所属
2013-2018年  大成建設設計本部 所属
2019年 kufu共同設立

作品
2018年 はこ
2023年 tobe
2023年 さかみち

受賞歴
2019年 JIA中国建築大賞 住宅部門大賞(はこ)
2020年 グッドデザイン賞2020(はこ)
2021年 モダンリビング大賞 アンダー40賞(はこ)
2022年 アイカ工業施工例コンテスト 最優秀賞(はこ)
2023年 AACA賞 奨励賞(tobe)
2024年 日事連建築賞 日事連会長賞(tobe)
2024年 日本空間デザイン賞 金賞(tobe)
     KUKAN OF THE YEAR 2024