鏡面の「直方体」がガラスを突き抜けて外に飛び出し、領域が拡張されたかのような空間

久保寛人インサイドアウト

裏

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

ファッションデザイナー 三原康裕さんとの実験的な場づくりの連作の一つです。「General Scale」という環境、社会的責任を考慮したプロダクトラインや「メゾン ミハラヤスヒロ」以外の新たな取り組みの場として構想が始まりました。サステナブルや環境意識を謳ったコンセプト表現は意識的に避け、ミハラらしくない、ミハラの遊びとしての空間を企んできました。設計者の立場としては、インテリアデザインの範疇におさまらないように建築的思考を意識し、屋外や周辺との関係、物質量や余白など、三原さんと議論を重ねました。

極端に天井が低く狭い室内を広く感じさせるため、室内と外部の境界線を弱め、向かいの住宅まで領域が拡張された空間をめざしました。
ビジュアルノイズを排した丁寧なディテールと、大胆なキャンティレバーのボリューム、余白や物質量の対比により、空間的な効果が増幅していくことも狙っています。

用途や機能を限定しないことによって、フレキシブルで転用可能な場となり、ミハラらしくない素材や空間にプロダクトが溶け込まずに、プロダクトが点として強く際立つ効果も生まれています。


思考の過程、実現のためのプロセス、製作過程、問題・解決

長さ7mの直方体のボリュームを2つの石の上に据え、ガラスを貫通させることが、施工的な課題でした。施工会社のイシマルさん、三保谷硝子店さんの協力や熱意により、精度の高い納まりや実験的な施工が実現できました。携わってくださった方々と、盛り上がって遊んでいるような楽しいひとときでした。


制作過程での出会い、発見、等・・・・

石材自重とガラス面接着により、鏡面のボリュームを約4m持ち出し固定しています。
真鶴の竹林石材店の採石場へ石を選びに赴き、現場でも角度調整できる回転可能なディテールとなっています。ガラス面接着は三保谷さんの経験則とアナログな実証実験を経て実現し、ガラス強度の特性を再認識しました。
真鶴の採石場(撮影:インサイドアウト)
真鶴の採石場(撮影:インサイドアウト)
石材搬入風景(撮影:インサイドアウト)
石材搬入風景(撮影:インサイドアウト)
ガラス面接着 簡易実証実験(撮影:三保谷硝子店)
ガラス面接着 簡易実証実験(撮影:三保谷硝子店)

Question01

受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?

ガラス上に浮遊したスニーカー。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?

いろいろな職業の方々との関わり、チームの一員となれること。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番苦労する事は?

封建的規制、慣習、既成概念。

Question04

クライアントとのやり取りで印象的に残っている言葉や事はありますか?

面・線・点。

Question05

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

心が動いて、何かの気づきが生まれるきっかけを作れたらうれしいです。

Question06

空間デザインの多様性について一言

様々な価値観や目的による多様なアウトプットが求められますが、可視化されたデザインにこっそりと仕込む、建築的思考や不可視要素、コード等のステルス的な空間作用をいつも企んでいます。

Question07

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

デジタルの技術や精度、利便性が高まれば高まるほど、地道で面倒な作業やアプローチ、不確かなアナログの魅力も高まると思うので、両極をできるだけ行ったり来たり意識できたらよいなと思います。

PROFILE

久保寛人

久保寛人

インサイドアウト

久保寛人
1999-2007 クライン ダイサム アーキテクツ勤務
2012- Insideout ltd.設立。
日本大学藝術学部デザイン学科、桑沢デザイン研究所、ICSカレッジオブアーツにて、
非常勤講師。
インテリアデザインを軸に、建築・ファニチャー・グラフィック・アート等の領域の”越境”を意識している。設計業の傍ら、栽培した芳香植物や身近な素材から香りを抽出する「蘭引 RAMBIKI」として蒸留活動も行っている。
日本空間デザイン賞2024金賞(ショップ空間)、FRAME AWARDS 2024 (Honourable Mention June)受賞。