苅田の住宅
豊かな⾃然環境を享受する、おおらかな器
末廣香織、末廣宣子、佐藤寛之NKS2アーキテクツ
応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください
都市郊外の住宅地に建つ、夫婦⼆⼈のための住宅です。夫婦の居住空間がメインですが、⼤⼈数を収容できる広い室内空間と、パーティーなどにも対応できる開放的な屋外空間が求められました。ただ敷地に近接して住宅やアパートが建て込んでおり、この地域を縦断している前⾯道路は、かなり交通量が多い。このような典型的な郊外住宅地内に建つ住宅のあり⽅として、住宅内のプライバシーはしっかり確保しつつも、周辺の環境や景観を向上させる建物を設計することが⽬標でした。
少し歪んだ円形平⾯をもつ外周壁の上に、周囲からの視線を遮りながら空を引き込む、巨⼤な器のような形の⽡屋根を設けました。外周の漆喰壁は緩やかに曲⾯を描きながら連続し、絵画を飾る背景となっています。そのように閉じられた外周壁に対して、中庭側には様々な形に屋根を切り込んでできた⼤きな開⼝部があり、屋内に⼗分な⾵や光、緑を取り込むので、屋内空間は明るく開放的です。
屋根を⽀える梁は同⼀形状で中⼼点から放射状に並んでいますが、それぞれの場所で必要な空間の広さと⾼さを確保するために、中⼼から外周壁までの距離を少しずつ変化させています。前⾯道路側は⾼さを抑えて天井が低くて良い⾞庫や⼟間スペースを配置し、⼈が集まる居間・⾷堂は、平⾯的にも広く、天井も⾼くなるように設定しました。こうした操作により、⼤きな器のような屋根の下で展開するひとつながりの空間の中に、⼤⼩の中庭と天井の⾼低差を拠り所とした多様な居場所をつくり出しています。
住宅地の中にありながらも豊かな⾃然環境を享受でき、⽇常⽣活だけでなく、時にはギャラリーやパーティー会場にもなる、おおらかな空間構造を持つ建築となりました。滑らかな曲⾯を描く⽡屋根は、空を切り取り、⾬⽔を集め、太陽の光を柔らかに反射します。中庭のベンチに座って上を⾒上げると、⾃分も空と⼀体化して⾃然の⼀部になったように感じられます。
空の器 / 撮影 YASHIRO PHOTO OFFICE
Question01
受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?
器の中央をどのような場所にするのか(⽡を敷きつめるのか、シンボルツリーを植えるのか、池にするのか等)検討を重ね、最後、⽡によりかかり空を⾒上げるベンチを作ったことです。
Question02
空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?
施主とのコラボレーションで、新たな発見があることです。
Question03
空間デザインの仕事の中で、一番嫌な事は?
特に思い当たりません。
Question04
クライアントとのやり取りで印象的に残っている言葉や事はありますか?
初めて敷地を⾒に⾏った時に、あまりに普通の住宅地で、⾒たくないモノがたくさんありますねとつい⾔ってしまったことです。施主が別の⼟地にしようかと迷い始めてしまいました。
Question05
受賞作品においてコロナの影響はありましたか?
特にありません。
Question06
空間デザインで社会に伝えたいコトは?
デザインされた空間では、みんなの⽣活が楽しくなるということです。
Question07
空間デザインの多様性について一言
それぞれの価値観でちがうものも多いですが、それぞれがデザインに責任を持って真⾯⽬に取り組めば、まちとして変なものにならないはずだと思います。。
Question08
空間デザイナーを目指す人へのメッセージ
どのようなものでも、社会を形つくるひとつとして、責任が持てるデザインを志してください。
PROFILE
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末廣香織、末廣宣子、佐藤寛之
NKS2アーキテクツ
建築の、広義な意味での「構造」を主題として設計活動に取り組み、住宅やオフィスなどのきめ細やかなディテールが求められる建物から、庁舎や図書館などの⼤規模な公共建築物まで、幅広いプロジェクトを⼿がけています。
主な受賞歴
2023 年 福岡市都市景観賞 建築部⾨賞「010 BUILDING」
2022 年 ⽇本建築学会作品選奨「銘建⼯業本社事務所」
2017 年 ⽇本建築学会作品選奨「春⽇の住宅」
2016 年 福岡県⽊造・⽊質化建築賞 ⼤賞「福岡⼥⼦⼤学」
2015 年 ⽇本建築学会作品選奨「⾏橋の住宅」
2012 年 福岡県美しいまちづくり賞 ⼤賞「むさしヶ丘の住宅」
2010 年 ⽇本建築学会作品選奨「志井のクリニック」
2000 年 福岡県美しいまちづくり賞 ⼤賞「⼤野城の住宅」