新作オペラ「スーパー エンジェル」
新作オペラの舞台装置:現実と非現実が交錯する仮想マトリックス空間のデザイン
針生 康SHSH Architecture + Scenography
応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください
作品の説明脚本上のX Y Zマトリッ クス空間を意識し、鉄構造 は極限まで細くし現実と非現実が交錯する 仮想現実的空間を目指す。音楽の時間軸上に、空間演出が観客の目の前で軽やかに展開。 アンドロイド が出演するため、デザインの過程にもコードの技術を用いて、空間の明快さとカオスの双方を空間演出。模型を作成して照明計画、3Dモデリングにて映像のデータを作成。映像・照明・舞台装置が融合されていくような近未来空間を目指しました。
舞台装置が今後の再演においてもスムースに使用できるように、組み立てと解体のシステムをコンパクトかつシンプルに設計しました。構造エンジニアの揚原氏に構造計算を依頼し、全ての構造物は再公演にて利用が可能となっています。解体後に場所を取らずに保管でき、 持続可能 なプロダクションとして準備しました。
総合舞台美術を担当させていただき、 コロナの状況下において約2年、視覚的効果を包括することにも大変労力を費やしました。具体的にはイメージをたくさん用意し、 視覚的 世界観を演出家、音楽家、作家、プロデューサー、出演者、演奏者、製作、制作の皆様に理解、共有できるように準備をしました。また音楽のタイムラインとリブレット(物語)を読み込み、各々のシーン毎の舞台装置の転換リストと照明のキューシートを作成し、照明と映像のイメージを3Dで 事前に視覚化し、装置と衣装の相互関係を視覚化していきました。
公演が中止にならないようにと祈る反面、コロナで児童合唱に影響がないか等、心配でストレスも多い中の公演となりました。最終には各々の分野(装置、照明、衣装、映像) 視覚的 ダイアグラムを用意して テクニカルウィークに備え、どの分野の方々にも共通でアイデアが理解できるように本番を迎えました。装置転換などは土壇場で変更も多くなり反省点も多々あります。たくさんのチームの方々に支えられ、コロナ渦中の制限がある中、短期間で現実と非現実が行き交う、人間とアンドロイド の友情を描いた新しいオペラの世界観を提供できたと思っております。
新国立劇場(Top image: Shizuka Hariu)
総合舞台美術(装置・衣裳・照明・映像監督):針生 康
Creative Art Direction (Set, Costume, Lighting Design and Video Direction):HARIU SHIZUKA
SHSH Architecture + Scenography
実施場所:東京・渋谷区(新国立劇場)
実施開始年月:2021年8月
総合プロデュース、指揮:大野和士
台本:島田雅彦
作曲:渋谷慶一郎
演出監修:小川絵梨子
総合舞台美術(装置・衣裳・照明・映像監督):SHSH Architecture +_ _Scenography 針生 _康
映像:WEiRDCORE
振付:貝川鐵夫
舞踊監修:大原永子
大道具製作:小山工作所、東宝舞台、Showtex HongKong
舞台装置構造計算:揚原茂雄 _+ _Structural NET
クライアント:文化庁、日本芸術文化振興会、新国立劇場運営財団
撮影:鹿摩隆司
Question01
受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?
オペラスーパーエンジェルではクリエィティブダイレクターとしてデザインしたので、空間デザインを完成させるための照明でしょうか。
Question02
空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?
今まで考えていたデザインが完成に近づき劇場のテクニカルウィークの現場に行く時。
Question03
空間デザインの仕事の中で、一番嫌な事は?
見積もりの準備で表を作成。デザインを他者に伝えるために論理的な文章に置き換えていく作業を開始する時。視覚的にイメージしたことを文学的に表現していくのが難しい。
Question04
コロナ禍でのデザインの果たすべき役割とは?
オンラインに限らず実際に舞台を見にいきたいと興味を持ってもらえる様にデザインしていく。密にならない様なサーキュレーションを考えていく。
Question05
リアルとバーチャルを融合させる空間デザインとは?
素材の軽さや、反射性の他に、空間が包括する光のボリュームなどをイメージしていくことでしょうか?模索中です。
Question06
空間デザインで社会に伝えたいコトは?
現代の空間デザインは、多種多様な空間環境やナラティヴが想定されています。私たちはデザイナーはオンラインや仮想現実が進む中で、実際の空間で体験、そして味わっていただくことができる空間感覚を提供し、そしてその感覚を共有して行けできるような空間のデザインを目指しています。
Question07
空間デザインの多様性について一言
様々な空間、建築、インテリア、インスタレーション、舞台、仮想現実も含みジャンルや特定の文化の枠を超えた空間のデザインに対応していかなくてはならないと思います。面白い時代になったなあと思います。
Question08
空間デザイナーを目指す人へのメッセージ
実際のデザインの過程はとても地味な側面が多いですが、たくさんの人に楽しんでもらえる空間のデザインはやりがいのあるお仕事です。日本、海外、言葉を超えた共有できる空間を目指して仕事をしていけると信じています。
PROFILE
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針生 康
SHSH Architecture + Scenography
英国舞台建築博士。
東京理科大学大学院建築学修士課程修了後、文化庁新進芸術家海外派遣制度・ポーラ美術財団の助成にて渡英。現在は日欧を中心に舞台美術、アートディレクション、空間デザインを手がける。
主要作品にオペラ『スーパーエンジェル 』新国立劇場、『Written on Skin』サントリーホールの総合舞台美術、アクラムカーン&シルヴィギエム『聖なる怪物たち』、英国王立芸術院『Sensing Spaces』、オノ・ヨーコ『BELLS FOR PEACE』MIF2019等のデザイン担当、世界各地で公演。
受賞歴に日本初ワールドステージデザイン2022カルガリー銅賞、ワールドステージデザイン2017台北銅賞、伊藤熹朔記念賞奨励賞、D&AD、ドイツデザイン賞、モーロンウェルズ図書館最優秀賞など受賞多数。
国際デザインNonA Award, ADC Award審査員、Hello Stranger英国舞台美術の展覧会デジタル部門キュレーター、ロンドン大学、アントワープ大学、セントマーチン大学院、在英日本大使館、V&A等で講演。
現在、SHSH Architecture + Scenography共同代表。