狸上るビル

自然光と街の賑わいを引き込む建物とアーケードの新しい繋がり方/脱炭素時代のものづくり

千葉拓也 / 高嶋一穂竹中工務店

狸上るビル

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

北海道札幌市中心部の全蓋アーケード、狸小路商店街に面して建つ小規模複合ビル。本計画では雪国の全蓋アーケードに面した建物の建て替えを通じ、「街の賑わい創出に寄与する小規模開発のプロトタイプ」と「生産合理化と建設資材削減を図る持続可能な建築手法の構築」をテーマに設計を行った。

[自然光と街の賑わいを引き込む、建物とアーケードの新しい繋がり方]
 雪国のアーケード商店街の建物は、アーケードとの隙間を塞ぐように壁面を揃えて建ち並ぶ。そのため、商店街の賑わいを直接享受できるのは2階までの店舗に限られ、訪れる人々が憩うためのオープンスペースはほぼ見られないのが課題と感じていた。
そこで、建物壁面のセットバックにより生み出したスペースの上部にトップライトを架け、自然光溢れるポケットパークを創出。三層吹抜けの半屋外空間には、2階への階段や、アーケードの上下を望めるテラス、3階にガラススクリーンを設けて視線と動線を繋ぎ、建物とアーケードの関係性を立体的に拡張した。ポケットパークでは和太鼓の演奏イベントが行われる等、商店街と一体となった多様な活動の受け皿となり、街の活性化に寄与する。
通常は貸床面積とする部分を公共空間に置き換えながらも、人の流れを敷地内に引き込み、街の活性化に寄与する空間の創出とテナントの商業価値向上の両立を図る小規模開発のプロトタイプになることを目指した。

[脱炭素時代のものづくり]
 計画地はアーケードにのみ接道し、その他三方向は建物に囲われているため、建設時の搬出入が深夜から早朝に限定される、且つ大型揚重重機の設置や資材ヤード確保が困難という施工計画上の制約が非常に多い場所であった。そこで、本計画では建設時に必要不可欠な仮設材に着目し、生産合理化と建設資材量削減を図る持続可能な建築手法の構築を試みた。
外壁は木毛セメント板と断熱材を接着した複合板を打込型枠として、仮設撤去と仕上工程を無くした。更に、ラチス梁の採用により型枠支保工を省略し、RCとの本節合成梁として梁成を最小化している。ラチス梁は照明取付下地を兼用し、設備機器を排したノイズレスな天井面により自然光を間接的に取り込み、明るく開放的な事務所空間を実現。ラチス梁、フェローデッキ、打込型枠の木毛セメント板など、仮設材と仕上材を融合したものづくりの過程をインテリアに表出させた。
仮設材と仕上材の融合による生産合理化と建設資材削減を通じて建設時エンボディドカーボンを抑制する、構造種別によらない脱炭素時代の建設手法の原型となることを目指した。

アーケードとの隙間を塞ぐように壁面を揃えて建物が建ち並ぶアーケード商店街。
アーケードとの隙間を塞ぐように壁面を揃えて建物が建ち並ぶアーケード商店街。
自然光と街の賑わいを引き込む、建物とアーケードの新しい繋がり方。
自然光と街の賑わいを引き込む、建物とアーケードの新しい繋がり方。
ポケットパークは和太鼓の演奏イベントが行われる等、商店街と一体となった多様な都市活動の受け皿となる。
ポケットパークは和太鼓の演奏イベントが行われる等、商店街と一体となった多様な都市活動の受け皿となる。
木毛セメント板と断熱材を接着させた複合板を打ち込み型枠とし、仮設撤去と仕上の工程を無くした。
木毛セメント板と断熱材を接着させた複合板を打ち込み型枠とし、仮設撤去と仕上の工程を無くした。
ラチス梁の採用によって型枠支保工を不要とし、RC梁との合成梁とすることで梁成を最小化。
ラチス梁の採用によって型枠支保工を不要とし、RC梁との合成梁とすることで梁成を最小化。

Question01

受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?

アーケード商店街をより活気づけたい!したいという、クライアントの強い想い。
容積緩和等のボーナスがないエリアにおいて、民間開発で街の賑わい創出に寄与する半公共的な広場空間を実現できたのは、その想いがあったからこそ。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?

関係者とのディスカッションを重ね、アイデアの解像度を高め、ブレイクスルーしたと感じた時。自分一人だけでは到達できない飛距離を出せることに、チームで設計する意義を感じます。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番苦労する事は?

共感を生む普遍的なコンセプトを考えること。そして、その強度を保ちながら現実的な課題を解決していくこと。

Question04

クライアントとのやり取りで印象的に残っている言葉や事はありますか?

「このデザインが実現したところを見てみたいと思ったから決断できた」と言って頂けたことです。また、建物名『狸上(のぼ)るビル』には「狸も上に登ってみたいと思えるビルが完成した」という、施主の想いが込められています。

Question05

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

建築には社会や人の生活をより良くできる力があると信じて設計をしています。

Question06

空間デザインの多様性について一言

デザイン的思考や価値観は人それぞれなので、デザインプロセスやアウトプットされる空間表現に多様性はあって然るべきです。ただ、デザインで解決すべき課題の本質は変わらないように思います。

Question07

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

考えることをやめない、そして決断に覚悟を持つということが設計者には大切な心構えなのではないかと思います。

PROFILE

千葉拓也 / 高嶋一穂

千葉拓也 / 高嶋一穂

竹中工務店

左:千葉拓也
竹中工務店 北海道支店設計部 チーフアーキテクト
1986年 北海道生まれ
2011年 北海道大学大学院工学研究院修士課程修了後、竹中工務店入社
主な受賞歴
2020年 グッドデザイン賞
2022年 日時連建築賞 奨励賞、照明普及賞
2024年 グッドデザイン・ベスト100、日本空間デザイン賞 複合商業施設空間部門銀賞、インテリアプラニングアワード 優秀賞、照明施設賞、日本建築家協会優秀建築選

右:高嶋一穂
竹中工務店 北海道支店設計部 設計2グループ長
1976年 北海道生まれ
2001年 北海道大学大学院工学研究院修士課程修了後、竹中工務店入社
主な受賞歴
2009年 日経ニューオフィス賞 経済産業大臣賞
2012年 AIAアメリカ建築家協会 優秀賞
2013・2017年 BCS賞
2018年 日事連建築賞 日事連会長賞 
2024年 グッドデザイン・ベスト100、日本空間デザイン賞 複合商業施設空間部門銀賞